水彩ってただ塗るだけだと失敗しがち。実は塗り方って決まりというか、コツが色々あります。
よく初心者にありがちなのが、水びっしゃびしゃにして変なところに線ができちゃったとか、乾いたところをいじって崩れちゃったとか、水分量をミスった失敗。
筆にどれだけ絵の具や水分を含ませるか、それぞれ名前がついてるくらい、技法として成立してたりします。”水”彩ですから、お水の使い方って大事です。
ざっくりですが、それぞれ技法の名前とやり方を簡単にまとめてみました。
ちなみに水彩の技法は英語で表記されることが多いです。
日本語って一つの言葉でたくさん意味を内包してて、曖昧になりがちなので、技法を和名表記すると混乱の元なんですよね…
以前、とあるメイキングを拝見したときは、ウォッシュもバックランもウェットオンウェットもすべて「にじみ」で押し切ってました。力技すぎる。
なんとなく伝わるのでいいっちゃいいんですが、プロの技法書などでは英単語で表記されているので、理解しやすくなるため覚えてて損はないです。
基本の塗り方
作例はすべてホワイトワトソンを使用しています。
普通の画用紙ではサイジングがきいておらず、上手く塗れないことが多いので、かならず水彩紙を使いましょう。
描き続けてもあまりに上手くいかないときは、筆や紙が合ってないのかもしれません。イタチ毛の筆や、コットン100%水彩紙なども検討してみてください。
ウォッシュ(平塗り)
絵の具を適当な水で溶かし、筆にとって紙に塗り広げていく方法。すべての基本の塗り。水分コントロールが非常に重要。
水が多すぎるとエッジができたり、水分量の差でバックランを起こしたり、逆に少なすぎるとかすれたり。
紙に置いた時水が盛り上がるくらいだと多すぎ、擦れていると少なすぎます。
コツとしては、ボタ落ちしない程度に多めに筆に含ませて、一気に伸ばし広げたほうが上手くいきます。モタモタするとムラの元。
ドライブラシ
筆の水気を切る、あるいは乾いた筆で絵の具を伸ばすと、かすれます。
こちらも立派な技法。
質感を与えたり、水面の光の反射などを表現できます。
とにかく乾いていたほうが成功しやすいので、水含みのよい動物毛より、ナイロン筆のほうがやりやすいかもしれません。
バックラン(逆流)
着彩したあと、乾かないうちに水を置くと逆流を起こし、白い独特の模様ができます。
俗称で、カリフラワーやイソギンチャクなどと呼ばれ、人によっては単なるにじみと呼んだりします。木製パルプメインの水彩紙など、乾きの早い紙で非常に起こりやすいです。
雪のようにほわっとしたものを表現したり、独特の質感を与えることができます。
作例では、色が乾ききる前にちょんちょんと水筆でつついてみました。じわじわ水が広がったら、後は絶対いじらないこと。流れが変わったり水分差が出て汚くなります。
また、狙っていなくても、広い範囲を塗っていると、先に塗った所が乾いて水分量に差が出るので、濡れた場所との境界に出ることが。
保水力の高い乾きの遅い紙である程度避けることができますが、気づくと出来てるんですよね…
ハードエッジ
単にエッジとも。絵の具を置くとき水をたっぷり使うと、乾く際に色が水たまりの縁に集まり、線で縁取ったように見えます。
これを上手く使うと一気に水彩らしさが出ますね。とにかく水多めに塗ればたいてい勝手に出来ます。
逆にあまり出したくない場合は縁を水筆でなぞってぼかしたり、白を混ぜて質感を変えるとマシになります。線画と縁が重なるように塗るのも手。
水彩境界とも呼ばれますが、わりと最近の呼び方なので、古い技法書などには載ってないかもしれません。
この言葉が定着したのは、おそらくCGソフトにエッジを再現する機能がついた頃かと思います。水彩絵の具のエッジは絵の具本来の色が濃く縁に溜まるのに対し、CGソフトは描画色から少しくすんだ色を縁取るようなので、若干表現に差異があります。
グラデーション(階調)
色を伸ばすとき、境界をぼかして段階的に濃淡をつけると、グラデーションになります。夕焼け空などをイメージするとわかりやすいかも。
一色で濃淡をつけるのも、二色以上移り変わるように塗るのも、一度乾いてから別の色を重ねる、というのも段階的濃淡がついていればグラデーションです。しかし、紙や絵の具の性質によっては、上から色を重ねると崩れてしまうこともあるので、かならず他の紙に試してから塗りましょう。
途中で乾くと境界ができて美しい濃淡にならないので、手早く作業する必要があります。途中で水分が足らなくなると失敗しやすいので、筆に多めに色をとり、さっさと動かすのがコツ。
コットン100%配合の水彩紙など、保水力の高い乾きがゆっくりな紙を使うと、比較的落ち着いて作業できます。
比較的。もたもたしてるとダメだけど焦っても失敗するのがつらい。
ぼかし
正確にはグラデーションの一種です。
乾いた所に色を塗ってから、水をつけた筆でなぞって縁をぼかし、なめらかにします。ぼかした部分にはエッジができません。
これも、水分量を間違えるとバックランを起こして汚くなってしまいます。
メイキングや技法書などでいう「ぼかし」はこちらを指している場合が多く、人によっては「にじみ」と表現したりもします。水で塗った所にそって色がにじんでいくので、間違ってはいないのですが。
あらためて、日本語って曖昧ですね。
ウェットオンウェット(たらし込み)
塗れた状態の紙に色を置いてにじませる技法。にじみ、というと基本的にこちらを指します。
絵の具の広がりは顔料の性質やメーカーによります。傾向として、ステイニング系の絵の具はよく広がり、グラニュレーション系は沈んであまり広がず、つぶつぶとした質感が強く出ます。これらを混色した色だと、よく分離します。
上手くいくコツとして、たっぷり水を含ませて水分量の差がでないようにすること、乾くまで絶対いじらないこと。
下手に筆で触ると、色がとれてしまったり、バックランを起こしてグズグズの模様になってしまいます。
また、ドライヤーなどで乾かそうとすると、水があっちこっち飛ばされて、変なところまで色が広がる恐れがあります。
ちょっと不満があっても手を出さず、我慢するのが失敗しない最大のコツ。
とにかく根気のいる技法になりますので、乾くまでは休憩するか、別作業をすることをおすすめします。
ウェットオンドライ(重色)
着彩して乾いた上からさらに色を重ねること。
透明色を使えば下の色と重なり、たとえば青にピンクを重ねれば紫に見えたりと、透明感を最大限生かした表現ができます。
しかし、水彩は「乾いても水が加わると溶けだす」性質を持っており、下の色が溶けだし崩れて、描画が汚くなってしまうリスクもあります。作例も、あまり定着の強い紙ではないため、一部色が滲んでいます。
これを避けるために、定着力の強い絵の具(フタロシアニンなど)を使うか、よく色を吸い込むコットン100%紙を使用するといいです。
塗る色の順番も、なるべく薄い色を下(先)にしたほうが、溶けだしも気になりにくいです。
ただまあ、性質上仕方ないところもあり、ある程度は滲む・色が取れることを念頭に置いたほうが、落ち着いて作業できます。
リフト(リフティング、リフトアウト)
濡れた色をふき取る、あるいは乾いた色を拭いとることを、リフト(色を浮かせるの意)といいます。
白を使わず光の筋を描く、はみ出した個所を水筆でなぞって修正するなど、水に濡れると溶け出す水彩の特性を生かした技法です。
また、色を塗った個所にクシャクシャのティッシュやキッチンペーパーを当てれば、ところどころ白抜きされ、面白い模様ができます。
いずれも、定着が良すぎる絵の具や紙だと綺麗にできません。また、拭いすぎると紙を痛めてボロボロになる場合もあります。
できるだけ乾く前に作業したほうが上手くいきます。
ソルト(塩)
この技法は比喩とかでなく、ガチで食塩を使います。
色塗りをして、乾かないうちに塩を撒くと、その周囲が霜や雪の結晶のように白く抜かれます。
気温や室温に大きく左右されるうえ、濡れすぎず乾きすぎずギリギリを見定めないといけないため、コントロールが非常に難しい技法です。
また乾燥した場所だと、効果が表れる前より先に絵の具のほうが乾いてしまうため、そもそも成功できない時もあります。
あまりに偶発性が高いので、今回も、作例を作る際にひとつも成功しませんでした…なので上画像はアルビレオ紙で過去製作したものです。
失敗例
こちらが失敗例。白抜きが埃みたいに散らばってます。
エアコンきかせた室内って乾いてますよねー…あっという間に乾燥してびっくりした。
また、使う塩はなるべくシンプルなものにしたほうがよいです。下手に栄養のある塩だと、後々紙が黄ばんだりシミになることもあるので。
スパッタリング、ドロッピング
絵の具をブラシにつけて網にこすり付け、粒を飛ばして粒子模様をつけるのがスパッタリング。
水たっぷりで溶いた絵の具を垂らして水滴跡をつけたり、垂らした絵の具に空気を吹き付け伸ばすのがドロッピング。
いずれも飛沫状の技法です。
荒々しく格好良いテクスチャになるので、仕上げに使ったりすると雰囲気が出ます。
ホワイトと飛ばしてもいい感じになります。雪や星空の表現に最適。
勢いが大事なので、色が乗ってほしくない所はしっかり保護して、また紙の外まで飛ぶので周りが汚れないよう気を付けましょう。
絵の具の粘度にもご注意。薄すぎると乾いても目立たないし、濃すぎるとそもそも飛沫が飛びません。
マスク、マスキング(白抜き)
専用のインクやテープなどを使い、色がつかないよう覆ってから彩色して、完全に乾いてからインクやテープを除去すると、保護した紙色がそのまま残る、というもの。実はマスキングテープってこの技法のためにあるんですよ。最近おしゃれ文房具代表みたいな顔してるけど。
細かい模様や前髪部分をマスクして、塗った後はがし、白抜きした部分に描画すれば、濁らず彩色できたりもします。マスク後に再描画するには、紙の強度やマスクに使用するインク、テープの相性もあるので注意。ボロボロになっていたら色を置いても汚くなります。
白抜きしたいだけなら、アクリルガッシュやクレヨンなど、水をはじくもので事前に塗っておく、という方法もあります。
紙に負担のかかる技法なので、事前にしっかり計画を立てておきましょう。
一番のコツは下手にいじらないこと
水彩はその特性上、水が乾くまで色が動き続けます。
濡れている間はいくらでもいじれるのですが、乾いたら定着しちゃって修正が難しくなります。
乾き始めたらそこはもうノータッチでいきましょう。
「それでも、ここだけ、ちょっとだけ…」でいじると失敗します。確実に失敗します。
ちょっと失敗したと思ったら、完全に乾かしてから同じ色を上から塗る。
もしくは、ホワイトを飛ばして目立たなくする。
この部分は失敗したけど他は上手くいった、ならばもうそこは諦めて、他の所を綺麗に塗って完成させませましょう。
ぶっちゃけ、アナログで全てを完璧に塗る必要ってないです。機械じゃないんだから気を付けても出来ちゃうものなんです。
アナログ的な粒子感が味なら、ムラムラの失敗だって味。
次から気を付ければいいんです。
絵を完成させる以上に、上手くなる方法なんてないんですから。
気負わず、アナログ感を楽しみましょう。
参考リンク
以前はミューズがわかりやすい技法一覧をサイトで公開してくれていたんですが、サイトリニューアルで消えちゃって、なぜか今は画材販売.jpでのみ確認できます。
https://www.gazaihanbai.jp/user_data/suisaigihou.html
技法におすすめの紙など紹介されてるので、水彩紙えらびにも参考になります。
また呉竹さんが筆ペンのサイトで水彩技法のメイキングを(動画つきで!)乗せてます。
https://fudepen.kuretake.co.jp/
染料インクの筆ペンが前提となってますが、技法自体は水彩のものなので、ほぼそのまま参考にできます。
水筆ペンは水彩でも使っている人も多いですね。水筆としても着彩用としても便利です。