888お絵かき備忘録

お絵描き・水彩ノウハウ

綺麗に混色するために絵の具を知ろう

透明水彩絵の具同士は、色を混ぜて使うことができます。

たとえば、赤と黄色を混ぜてオレンジを作ったり、青と赤を混ぜて紫を作ったり。

しかし、色よっては混ざりきらず分離したり、濁ったり、薄くなったり暗くなったりと、思った通りの色にならないことがあります。

これは、顔料の性質が影響していて、組み合わせに大きく左右されるからです。

透明度にも違いがあり、知らずに重ね塗りして下の色と混ざってしまった、あるいは下絵が隠れてしまった、なんてことも。

色による違いを知っておくことで、そういった失敗は防げます。

 

ついでに、どんな顔料を知っておけば、メーカー違いの同じ色をうっかり買ってしまった、なんて凡ミスも回避できます。

絵の具の名前に捕らわれず、できるだけカタログやパッケージの情報も意識するようにしましょう。

 

顔料の違いを知る

まず、色の元である顔料のについて知っておきましょう。

顔料っていうのは、絵の具に含まれる色の粉で、基本は不透明です。

これを定着液(バインダー)と混ぜて、紙に残るようにしたものが絵の具です。

透明水彩は、定着液であるアラビアガムが透明で、こちらが多めに配合されているので、不透明な顔料も透明に見えてくるよう、調整がされています。

顔料はピグメントナンバーと呼ばれる英数字で表記され、カタログや製品パッケージの裏などに記載されています。

バーコードの下にちいさくPV23とある。これがピグメントナンバー。

ピグメントナンバーが同じものは、原材料が同じなので、メーカーが違っても基本的に同じ色です。

ただし、ナンバーが同じでも、まれに色が違う場合もあります。

たとえばフタロブルーでも少し黄色みがかったグリーンシェードと、やや紫に寄ったレッドシェードで微妙な差異があったりと、素材が同じでも調整がかかっていたりします。

顔料表記はあくまで目安で、カラーチャートなどで色味は確認したほうがいいです。

粒子感

顔料によっては、粒子の大きさが違ったり、比重が違ったりします。

俗称で粒子の細かく紙に沈み込みやすいものをステイニングカラー(ST色)、粒子が荒くざらざら感とムラが出てくるものをグラニュレーションカラー(G色)と呼んだりします。

粒子が荒いほど比重が重いことが多いので、軽いST色の絵の具と重いG色の絵の具を混ぜると、色が分離したりします。

WNのカタログより抜粋。フタロターコイズにはSt、コバルトターコイズにGとついている。

分離

上:G色とST色で混色 下:ST同士で混色

粒子感の違う絵の具を混ぜると、画像のように色が完全に混ざらず分離します。

複雑になる分使いどころが難しく、またそれぞれの色が主張するので、画像下のような紫を求めている場合は困ります。

欲しい色を確実に再現するために、基本の塗りではG色以外の色を混ぜます。

分離は質感や複雑さが欲しいときなど、事前に使いどころを計画しておいたほうが失敗しにくいです。

透明度

イエローオーカー(上)とキナクリドンゴールド(下)。同じ色に見えるが隠ぺい力に差がある。

透明水彩といえど、不透明な色は存在します。元々顔料が不透明だからです。

そもそも、英語ではWatercolor(直訳で水彩)なので、べつに透明という意味ではなかったり。たぶんガッシュを不透明水彩って訳しちゃったからややこしくなってる。

透明度はたいていパッケージやカタログに記載されていますが、表記がメーカーごと統一されていないので、調べないといけません。面倒くさい

ホルベインのカタログより。透明は〇、不透明は●で表記されている。

一応、トランスペアレントは透明、オペークは不透明な色にしか名前をつけられない、マークが黒塗りされていると不透明、といった共通項はあります。

不透明度が高い顔料は共通しているので、イエローオーカーなどメーカー通して不透明な絵の具を覚えたほうが早いかも。

 

透明色は上から色を重ねたり質感が出ますがムラになりやすく、混色でも他の色に負けやすい。不透明はムラになりにくくハッキリ発色し、下の色に負けない隠ぺい力で画面を均一に整えられます。

水などで薄めれば不透明色も透明度を上げることはできます。が、調整が難しいので、利点を捨ててまで作る必要はないかと。

たまに、シュミンケなどが本来不透明な絵の具を、調整して透明色にしたものを販売してたりします。どうしても透明のほうがいい、って方はそういった絵の具を探すといいかもしれません。

単一顔料・複数顔料

絵の具に顔料がどれだけの種類入っているかによって、単一や複数と呼ばれます。

たとえば、真っ白なチタニウムホワイトはPW6の一種類だけなので、単一顔料です。

青みがかった暗色のペインズグレーは、ホルベインならばPBk6、PB15、PR122と三種類入っています。この色はたいてい、どのメーカーでも青顔料と黒顔料を混ぜ合わせているので、複数顔料です。

メーカーごとに組み合わせに個性はありますが、三原色や真っ白、真っ黒など、特定の色は共通の顔料で固定されている場合も多いです。

同じ緑でも、単色の緑は人工的な色味で、オレンジと混ぜた複数色の緑は比較的自然な、彩度の低い色をしています。

複数顔料絵の具は、同じ顔料の絵の具があれば混色で再現可能ですが、全く同じにするのは配分を微調整しなければならず、少々手間。

大量に使う、あるいは固有色ならば、初めから作ってある絵の具を使えば、その手間を省けます。

定着力

透明水彩の透明度の高い絵の具を利用して、紙の上で混色するという方法もあります。

重色といったやり方で、一度塗った色が乾いてから、上から色を重ねると、下の色が透けて混ざり合ったように見える、というもの。

ただ、このやり方は定着力の強い色を下に置かないと、上から筆でなぞった時に色が剥げてしまい、崩れてしまうという注意点があります。

ST色は定着力が強く剥がれにくい特性を持ちますが、メーカーによっては、少し差が出ることも。

こちらはフタロブルー(PB15)をメーカーごとに比較した画像。*1

全て乾いてから、上から水筆で何度かなぞり、色の剥げ具合をみています。

特にWNとホルベインの剥げ具合に大きく差が出ているのがわかるでしょうか?

なぜこのような差が出たかというと、WNは顔料の特性(この場合は定着力)を優先し、ホルベインは修正のしやすさを優先して、絵の具を作っているからです。

このように、同じ絵の具でもメーカーで異なる場合があるため、使いたい技法に絵の具が合っているか気を付けないといけません。

別メーカーの絵の具を混ぜてもいいの?

同じ透明水彩絵の具同士なら、アラビアガムと顔料という構成は変わらないので、同時に使用しても、混色しても大丈夫です。

ただし、メーカーによって絵の具の癖が違うので、W社の絵の具は綺麗に重なったのにH社は下の色が剥げちゃった、H社同士だとよく混ざった色がW社は分離して別物になっちゃう、など使用感に振り回される可能性はあります。

また、同じ水を使う絵の具でも、アクリル絵の具や岩絵の具などは、そもそも原材料が違うため、混色はできません。

併用したい場合は、先に水彩絵の具を使い、乾いてからなら色を重ねられます。下地に使って、わざとムラを出すという使い方もできます。

いずれにせよ、違う画材と併用する場合は、事前に可能かどうか、試しておいたほうがいいでしょう。

三原色

印刷に使われるシアン、マゼンタ、イエロー(CMY)がアナログにおける三原色です。

原色と称されるように、混色で生み出すことができない色で、この3色を混ぜることで理論上はほぼすべての色相を作ることができます。

水彩における三原色

三原色で作った色相環。PB15・PR122・PY154以外はこの三色で混色してある。

透明水彩ではフタロブルーグリーンシェード(PB15)・キナクリドンマゼンタ(PR122)・イミダゾロンイエロー(PY154)*2が相当します。

このうち、フタロブルーとキナクリドンマゼンタはステイニングカラーですので、筆などが染まりやすい強い透明な色です。イミダゾロンイエローは半不透明色です。

これを知るまで「意外と思っていた赤や青と違った」って人は多いんじゃないでしょうか。実は真っ赤ってマゼンタにちょっと黄色が混ざった色で、海のような青は少しマゼンタを混ぜた色だったりします。完全な原色から、少しだけずれているんですね。

混色で失敗するのは、こうした意識の差から、補色を混ぜてしまうことが多いからです。

 

色相環での位置が反対の色同士は補色となります。並べるとビビットでチカチカしてくるやつです。

黒を作る場合は、三色全て均一に混ぜ合わせると、補色となり彩度が下がって、画像中央のような黒っぽい色となります。

三原色と色相環の位置を覚えておくと、混色で美しい色を作りやすくなります。

組み合わせ参考例

上記三原色より少し外れた組み合わせの例。

酷く濁るようなことはないけど、作る色に微妙な差が出て一長一短といった感じ。

ピーコックブルーはフタロブルーより明るく緑寄りの色のため、緑が作りやすく紫が若干作りづらいと感じた。

モナストラルブルーはかなり赤味が強い。緑を作ったら少しくすんだ。

パイロールレッドは一般的にイメージする赤に近い。オレンジは綺麗だが紫は濁ってしまった。

パーマネントローズ(PV19)はやや黄色寄りのマゼンタ。紫もキナクリドンマゼンタより赤味がかる。

トランスペアレントイエローミディアムは透明色。混色で他の色に食われてしまい色味が弱め。

絵の具の明るさや透明度によって、混色のしやすさは変わってきます。

自分好みの組み合わせを探るのもいいですね。

三原色を混色して塗った例

こちらはホルベインのキナクリドンスカーレット、ピーコックブルー、イミダゾロンイエローを三原色として塗った作例です。

肌色や背景の緑など、三色以外はすべて混色して表現しています。

キナクリドンスカーレット(PR209)は名前の通りかなり赤よりのピンク。

マゼンタとは色相がずれますが、赤い着物にしたかったためこちらをチョイス。暖色系の混色がしやすく、黒を作ると茶色っぽくなるため、和風の女の子と相性が良いです。

顔料からどんな色が作られるか、色相の組み合わせでどういった混色結果になるか、知っておけばこういう選択肢も選べるわけです。

混色で狙った色を作る

では、実際にどうやったら思った通りの色を作り出せるのか。

先に書いた三原色項でもそうですが、赤はマゼンタと黄色の混色だったりと、原色による組み合わせで、それぞれの色ができています。

オレンジや紫といった色は、ただ赤青黄を混ぜるだけでは、若干色相がずれて、鮮やかさが失われてしまうこともあります。

そして、鮮やかな色ばかりにこだわるのもよくありません。

茶色やグレーなどは元より、夜空のような紺色やベルベットのような暗い赤など、深みのある色を出したい場合、あえて濁らせる必要もあります。

ちゃんと補色を知って、彩度のコントロールをすると、狙った色を出しやすくなります。

補色を意識する

補色とは、色相環で最も遠い色同士をいいます。

上の図でいうところのオレンジと青なんかは補色です。この二つを混ぜると濁ってしまいます。なんでかっていうと、この中に三色含まれるからです。

ここでいう三色とは三原色のことで、絵の具が二種類というわけではないので注意。

画像の色相環グラデーションは、色の移り変わりを二色で混色しつつ表現しているため、濁らず綺麗に見えます。

上の画像、黄色はオレンジや青とは反対色のため綺麗に発色しますが、紫と黄色は補色なので濁ります。

この紫は絵の具一色の単一顔料なので混色したものより鮮やかですが、色相では赤と青の混色なので、補色である三原色残りの黄色を加えると、彩度が下がるのです。

三原色で見てみましょう。

色相環では濁りは見られませんでしたが、このように三色全て混ぜると灰色っぽく、彩度がかなり下がっているのがわかります。

色の中に三原色の要素全てが含まれると濁ると覚えておくといいです。

三原色それぞれ補色に近い色の絵の具と混色してみた例。
全体的にくすんだ色味になっています。

鮮やかな色を混色したいなら、なるべく使用するのは二色以内で補色を避けること。

原色同士ならまず濁りません。

彩度を意識する

鮮やかな色は二色以内に抑えれば作れることはわかりました。

では、彩度を下げる場合はどうでしょう。

逆に、補色を足してしまえばいいんです。

オレンジに補色の青を足してしまえば、このとおり濁って茶色になりました。

最終的に三色以上含まれていれば彩度が下がるため、くすんだ絶妙な色も作り出すことができます。

影の色、土の色、汚しの表現など、単体では汚らしく感じる色も、絵では活躍の場が広いです。

紫(赤+青)と朱色(赤+黄)、赤茶(赤+黄+青)と青、何色も混ざった色なら、混色するほど、どんどんくすんで濁っていきますね。

しかし、画像一番下のマゼンタと青緑の組み合わせは、あまり濁らずに紺色がかった青紫ができています。

赤と緑は補色のはずですが、なんで濁らないのでしょう?

色相を見てみると、マゼンタの一番遠い色は黄緑寄りの緑。青緑との組み合わせはそれよりちょっと近く、完全に補色でないことがわかります。

彩度が下がるには原色三つを同程度混ぜる必要があり、少しバランスがくずれれば彩度はそこまで下がりきらないわけです。

深みを出したい場合は、ほんのちょっと補色を足す、あるいは補色より色味の近い色を選んで、ほんのり彩度を下げましょう。

混色作例

黒を使わずに、混色で作った彩度の低い色で塗った例。

上で出たマゼンタと青緑の青紫になる組み合わせと、オレンジとウルトラマリンの補色の黒の組み合わせ。

薄めればグレーもきちんと表現できてます。ウルトラマリンを使ったので若干分離しており、既存の黒絵の具より複雑な色味を出すこともできました。

こうして彩度を調整すれば、少ない色数でもいろいろな表現ができるわけです。

分離に気を付ける

流行りの分離カラーですが、ざらざらとした質感でクセが強く、求めていないときに色が分かれてしまうと困ります。

重金属系顔料やG色を避ければ基本的にはできないのですが、まれにST色にも比重の重いものが混じっており、ST色同士で分離しちゃうこともあったり。

作例を作っていたときにもうっかりできました。緑の混色に使った黄色の比重が違ったっぽい。

 

ただ、分離色の利点として、彩度があまり下がらないという所があります。

キナクリドンゴールドとコバルトバイオレット系の混色。完全に混ざらず、所々元の紫が見えている。

混ぜても元の色がそれぞれ分離するので、混ざりきってない所は彩度を保っています。

なので、普通に混色するより、ぱっと見華やかになるんですよね。

勿論、求めていた色と違ったら雰囲気が崩れちゃうので、一長一短な特性ですが…

 

そんなクセ強分離色ですが、グレーや紫など暗色の分離は黒の代わりや影の色として使いやすく、上手く使えばニュアンスを加えられます。

こちら分離カラーオンリーで着彩したイラスト。複雑な色味と質感がおもしろい。

 

ちなみに、G色同士の混色でも分離はしますが、粒子のテクスチャが強すぎてちょっとわかりにくいです。

質感を保ったまま色変えができる、くらいに思っておいたほうがいいです。

12色セットは止めたほうがいいの?

ここまで読んだ人の中には「おや?」と思った方もいるかと。

そうです、三原色って、昔から販売されている12色セットとちょっと色が違うんです。

三原色って鮮やかでしょ?その分、最新の堅牢な顔料が使われており、ちょっとお高め。

なので、初心者でも買いやすい価格に抑えるため、またそもそも発売が古いため、セットには含まれないことも多いのです。

比較的新しく発売されたターナーの透明水彩セットは、12色のうちシアンとイエローに三原色に相当する色が入っています。ここにマゼンタを足せば、まず困ることはないでしょう。

じゃあ、他のメーカーも追従すればいいじゃん、って思うじゃん?老舗メーカーのセットは、技法書や教室などでめちゃめちゃ紹介・使用されており、今更内容を変えることができないんだとか。

 

今から始めるなら、三原色から選んだほうが、捨て色が少なくて出費が抑えられるとは思います。

ですが、上記の理由で、既存の12色セットを基準にするノウハウを目的にするのも、間違いじゃありません。

 

最終的にはもう、個人の好みです。

 

結局、私も三原色から始めたのに、色々買い足したりメーカー違いを試したりなんだりして、元の三色はもう使ってません。だからこんな比較できたんだけど。

でも最初に学んだことは決して無駄じゃなかったので、どれ選んでも使いようというか、絵は描けるから深く考えずに欲しいものを選べばいいと思います。

 

金銭的に初心者が最初っからクッソ高い絵の具を選ばないほうがいいけどね!なんだシュミンケの値上げ幅は!揃えたら破産するわ!

 

セヌリエも値上げのお知らせきたし、値上げの波つらい…つらい…

*1:レッドシェードとイエローシェードが混ざっていますが、原材料である顔料の性質自体は同じです

*2:メーカーによって色名は多少異なります